Jリーグを目指す動きは全国各地で見られます。
活動内容や支援体制もクラブごとに大きく異なりますし、“チーム力”だけでは分からない、クラブとしての“力”を知ることが、「Jリーグへの道」への近道となります。
先日、関東リーグからJリーグを目指している「
FC町田ゼルビア」のホームゲームを観戦してきました。
また試合後は、町田サポーターのミーティングを見学させていただき、意見交換もさせていただきました。
そこからとても多くのことを学びましたので、今回は町田に焦点をあて、他クラブ、強いては滋賀FCの課題を明確にできればと思い、この記事を書きます。
「FC町田ゼルビア」は1989年にクラブが創設され、2003年頃から組織を大きく変化させ、Jリーグに向けた動きを活発にさせました。
そこから一気にチームのレベルは向上し、
05年東京都社会人リーグ優勝、
06年関東リーグ2部優勝、
07年関東リーグ優勝と、あっという間に関東No.1の座に就きます。
昨年の地域決勝では予選リーグでバンディオンセ神戸(現加古川)と同じ組に入り、2勝(うちPK1勝)をあげるも決勝トーナメント進出を逃しています。
今年は、関東リーグ1部をここまで無敗で戦い、次節(後期日程第5節=6/29)に関東リーグ1部優勝(地域決勝進出)が決まる公算。地域決勝でもJFL昇格の可能性が高いクラブとして挙げられています。
そんなFC町田ゼルビアですが、
特出すべきなのは戦力もさることながら、運営の努力と、サポーター組織の充実、市民の関心度、行政のバックアップなど、“クラブとしての優秀さ”です。
訪れた日は天候が悪くまとまった雨が降りしきる中での試合。
まず、目に入ったのがホームスタジアム「
町田市立陸上競技場」の施設の豪華さ。
もちろんJリーグの開催基準には満たない器ですが、新しくきれいなメインスタンドは客席の80%程度が屋根で覆われ雨の日でも傘なしで観戦ができます。
バックスタンド・サイドスタンドはどこにでもあるような高さのない芝生ゾーンですが、ホームサイドに大きな電光掲示板を擁しており、地域リーグでもしっかり活用されています。
少なくとも、滋賀県ではこれほどの施設を有する競技場はありません。
スタジアムへのアクセス面では少し不利で駅から距離があります。 路線バスもあるのでしょうが、ほぼ車でなければ来場できない立地条件です。(分かりやすく言えば守山駅と佐川守山競技場ほどの距離があります)
スタジアム入り口付近には、多くのテントが建てられ、後援会受付やグッズ販売、それに露天が数点出店し、飲食面での不安もありません。地元商工会によるアルコールの販売もされており、イベントの規模ではJFLはおろかJ2をもしのぐものになっています。
■町田市立陸上競技場(通称「野津田陸上競技場」)
■地域リーグで露店が出るというのは想像を絶する
■グッズの数・種類も豊富(そして安い!)
スタジアム、メインスタンドのほとんどの部分(屋根で覆われたエリア)は、後援会的な組織「
サポートクラブ会員」限定の入場エリアとなっており、一般の人間は基本的に入場できません。
これはチケット制の試合とはまた少し異なり、後援会に加入している人間のみは入れるというものであり、有料試合という形とは少し毛色が違います。
メインスタンドは500~1000名程度を収容するサイズですが、サポートクラブエリアは満席で立ち見客も多くいます。
つまりこれは継続的に町田ゼルビアをサポートする人間が数多く居るということを示しています。
この日の入場者数は推定で700人程度。 地域リーグでこれだけの入場者数を記録するクラブチームは他にはないしょう。
■中央エリアはサポート会員のみ入場可とした運営の判断は評価できる
■活用されている電光掲示板と、熱い声援を送るゼルビアサポーター
サポーターは20~30人程度が組織立った応援をしています。
もともとはJリーグで活動していた人間が集まりサポーター組織を形成したという生い立ちですが、今では広く町田市民が集まり、若い人間も参加するようになっています。
応援もJリーグなどの真似事というよりは比較的オリジナリティあふれるものに感じました。 チャント(応援のための歌や叫び)にしっかりと歌詞がつけられたものが多かったのが印象的です。
コールリーダーは若い方ですが、サポーターの様子を汲み取ることが上手く、他のサポーターもコールリーダーへの信頼感が強いようで独りよがりの応援にはならず、まとまった声が出ています。
ただ人数の割にはすこし声量が弱いように感じました。(まとまった雨が降っていたのでなかなか声も出しにくかったのでしょう…)
各試合にサポーター製作のミニコミ誌を作成しており、ホームゲームではメインスタンド、応援席にて来場者に配布されています。
内容も充実しており、滋賀FCのサポーターがたまに作っているマッチデープログラムとは比べ物になりません。さらに、このミニコミ誌、カラー刷りです。
サポーターの組織立った努力が随所に見られるホームゲームとなりました。
■サポーター自主制作のミニコミ誌(マッチデープログラム) カラー刷りで内容充実
■選手とのコミュニケーションもとれている
ゼルビアがクラブ運営を円滑に行える重要な要素として計れるのが
スポンサーの数です。
客席入り口に掲載されたボードには数多くの賛助企業名が書かれており、中には大企業の名前も少なからずあります。 Jリーグの多くのクラブがやっているような階級に分かれたスポンサーがあり、調和のとれた協賛活動が行えているようです。
また、ピッチに目を向けると、ピッチ沿いにずらっとスポンサー看板が設置されています。
Jリーグ顔負けの看板量で、最近観戦した、佐川SHIGA FC、MIOびわこ、アルテ高崎のJFL3クラブのホームスタジアムの看板量をはるかに超えています。地域リーグでこれだけのスポンサーを集めているのは驚異的です。
ほかにも、スタジアム入り口で、町田のケーブルテレビ局(J:COM)が広報活動を行っていました。
「J:COM」もゼルビアのスポンサーになっており、頻繁にゼルビア広報番組を制作・放送しています。
メディア面でのサポート・アピールもしっかり行われているようです。
■もはや地域リーグではない規模のスポンサー
■ケーブルTV局「J:COM」の支援体制も十分
■ピッチを囲むスポンサー看板の多さに驚く
ざっと見たことを列挙しましたが、まだまだ細かいアピールポイントが多々ありました。
スタジアムDJの有効活用や、この日は雨のため中止になりましたが、試合後にピッチ上でボールに触れ合うことができるイベント開催など、地域リーグクラスだからこそできるイベントを行うことで市民に対してより身近な存在となるようアプローチしています。
これらのことを関西リーグ、あるいは滋賀FCを取り巻く環境と比較した時、その格差がはっきり見えてきます。
Jリーグを目指すクラブにとって必要な三大要素として「
民間(市民)」「
財界」「
行政」のサポートが挙げられます。
・「
行政」については、スタジアムや練習場などの確保と整備。 また交通インフラなどの施設面での支援が取り沙汰されます。
町田の場合はJFLレベルならば十分な施設です。また拡張や改修の余地も十分可能な立地条件ですので、今後についても大規模な税金投入も必要ないでしょう。(町田陸上競技場をホームスタジアムとする場合)
また、会場で目を引いたもののひとつに、あちらこちらに掲揚された「
ゼルビアと町田市のコラボレーションタペストリー」があります。
ゼルビアは2011年にJリーグ昇格を目指すという「
ゼルビア2011宣言」をしています。
あわせて、町田市は今年
市制50周年記念ということで、この二つを融合させたタペストリーをつくり、町田市総出での盛り上げを図っています。
この動きは、施設だけ・お金だけという形式上の支援しかしないところが多いサッカークラブと行政の関わりにあって、町田市は心の繋がりにもしっかり関心を向けている。「行政のバックアップ」とはこういうことを指すのだと改めて考えさせられました。
■行政の理解、そして行政との連携がうまくいっていることの証がこのタペストリーに現れている
・「
財界」の支援は文字通り金銭面でのサポートです。
先に紹介したとおり町田ゼルビアには
200社以上のスポンサー・法人後援会員が存在します。 これらの法人会員の支援は総額で1000万円を超え、JFL規模になっています。
また企業も資金協力だけでなく、選手の雇用確保の役割も持っています。
■数百社にものぼるスポンサー・法人サポート会員
・「
市民」レベルでのサポートも、スタジアムの入場者からその多さが容易に想像できます。
雨の試合でここまでの観客が集まるところを見るとサポート会員数は1000名を超えているでしょう。
サッカー人気の高い関東においても東京ヴェルディ・FC東京のホームタウンと文化圏が重なる場所でここまでゼルビアへの関心が寄せられ、支援活動が起きているのは奇跡的です。
・「
サポーター」についても、「ただクラブがあるから応援する」というような安易な意識での活動はしていません。
まだまだ組織として完成されていない状況で、応援の質だけでなく、メインスタンドに集まる市民・町田市へのアプローチ、クラブとの頻繁な折衝など積極的な働きかけを行っています。
徐々にではありますが、若い人間も新たに応援に加わっており、正当な応援理念から逸脱しないようにサポーター個人個人が自制心と積極的な発言提案を行っており、かなり風通しのよい組織になっているように感じました。
サポーター団体に存する方とお話をさせていただいた中で、最も印象に残っている言葉は、
『
5年後、10年後のゼルビアがどうあるべきかを常に意識して活動している』
というものです。
ゼルビアは「Jリーグを目指す」と宣言してからここまでほぼ順調に成長を遂げてきました。
順調すぎるがゆえに、立ち止まってしまうことが最大の恐怖に感じるというサポーターもいました。
また、ひたすら成長するがゆえに暴走してしまったり、周囲が成長についていけずクラブと市民、行政などの間に“ゆがみ”が出ることを危惧しています。
たとえば、この試合で初めてアルコールの販売を行ったとのことですが、そのことについても「車での来場が圧倒的」な現状で酒類の販売が飲酒運転に繋がらないか、どう予防線を張るか、万が一の場合の責任の所在などを事前にサポーター、クラブで話し合ったということです。
サポーターはチームが勝つということだけでなく、FC町田ゼルビアが町田市、町田市民と共存共栄して成長していけることを常に考えています。
またクラブ自信も、そのことを忘れることなく、積極的な活動を続けています。
昨年、松本山雅のホームゲームを観戦したときにもクラブの積極性を感じましたが、町田はさらに向上心を持った活動をされているなと感心させられっぱなしでした。
■試合後のサポーターミーティング 積極的な意見交換がされ危機感を持って活動されている
滋賀FC属する関西リーグに目を向けると、関東リーグのようなリーグ運営はまったく出来ていません。
関西リーグにも「バンディオンセ加古川」や「グラスポKashiwara」「ディアブロッソ高田FC」「滋賀FC」などJリーグを目指しているクラブは多々ありますが、町田のような活動ができているクラブは一つもないでしょう。
逆に言えば、関西リーグの受け入れ態勢の貧弱さにかまけて、自らの行動不足を正当化させているようにも思えてしまいます。
チーム力を除けば、ゼルビアと比較して「JFL昇格」を語ることはできません。 それほどの格差があります。
滋賀FCに置き換えて発言させてらえるなら、
クラブはもちろん、サポーターまでもが「5年後、10年後」を見据えているゼルビアにまずは追いつくことが最低限の義務です。
真似事でクラブ運営が出来るわけではありませんが、姿勢は見習わなければなりません。
もちろんサポーターもです。
滋賀FCサポーターは幸運なことに地域リーグ2部にしては人数では最低限の水準をクリアしていますし、経験値やインターネットなどを通じての広報は出来ているほうかもしれません。
でも、5年後、10年後を語ることが出来るかといえば正直なところ「NO」でしょう。
自分自身の今までの活動を大いに反省し、向上心を持たなければ5年後どころか、2~3年後もないでしょう。
もう「手探り」などと言っている状況ではないのだと、深く考えさせられました。
今後の滋賀FCサポートの質、運動量、広報の方法など、サポーターの立場でアプローチできることはさらに努力してよくしていかなければならないし、猶予はないのだと。
今後も町田ゼルビアの動きには注目させていただきます。
あわせて滋賀FCに反映できること、そして滋賀FCオリジナルの何かができればと思います。
今回の観戦はとても意味深いものになりました。
いろいろとお話をきかせていただいたゼルビアサポーターの皆様には心から感謝します。
ゼルビアは地域リーグに居てはいけないクラブです。 一刻も早くJFL、そしてJリーグへと活躍の舞台を移すことを切に祈ります。
地域決勝にむけてがんばってください。